花があったら

史上初めての原爆投下
あれから65年が経った。

最近では、原爆投下忌と終戦の日くらいしか
前の戦争を取り上げる記事や番組は殆ど見られなくなった。

こうして着々と風化が進んでいく。

それは前向きな姿勢であるとともに
歴史に目を背け省みない愚行でもある。

せめて、夏のこの時期くらいは、
改めて 史実に目を向け、戦没者への哀悼の意を表し、
戦争と平和、日本人などについて学び直したい。

できる限りのことを後世に伝え遺していきながら、
「これからの自分たちは、いかに生きるべきか」を
いつも心の根に抱き、意識し合っていきたいと思う。

 
以下は、原爆投下にも匹敵する民間人への無差別爆撃によって、
一晩で10万人が殺された東京大空襲の惨劇を克明に描いた本、
写真版 東京大空襲の記録』からの引用。
 

昭和二十年三月十日の(東京)大空襲から三日目か、四日目であったか、私の脳裏に鮮明に残っている一つの情景がある。

永代橋から深川木場方面の死体取り片付け作業に従事していた私は、無数とも思われる程の遺体に慣れて、一遺体ごとに手を合わせるものの、初めに感じていた異臭にも、焼けただれた皮膚の無惨さにも、さして驚くこともなくなっていた。

午後も夕方近く、路地と見られる所で発見した遺体の異様な姿態に不審を覚えた。

頭髪が焼けこげ、着物が焼けて火傷の皮膚があらわなことはいずれとも変りはなかったが、倒壊物の下敷きになった方の他はうつ伏せか、横かがみ、仰向きがすべてであったのに、その遺体のみは、地面に顔をつけてうずくまっていた。

着衣から女性と見分けられたが、なぜこうした形で死んだのか。

その人は赤ちゃんを抱えていた。
さらに、その下には大きな穴が掘られていた。

母と思われる人の十本の指には血と泥がこびりつき、つめは一つもなかった。

どこからか来て、もはやと覚悟して、指で固い地面を掘り、赤ちゃんを入れ、その上におおいかぶさって、火を防ぎ、わが子の生命を守ろうとしたのであろう。

赤ちゃんの着物はすこしも焼けていなかった。
小さなかわいいきれいな両手が母の乳房の一つをつかんでいた。
だが、煙のためかその赤ちゃんもすでに息をしていなかった。

わたしの周囲には十人余りの友人がいたが、だれも無言であった。
どの顔も涙で汚れゆがんでいた。

一人がそっとその場をはなれ、地面にはう破裂した水道管からちょろちょろこぼれるような水で手ぬぐいをぬらしてきて、母親の黒ずんだ顔を丁寧にふいた。

若い顔がそこに現れた。
ひどい火傷を負いながらも、息の出来ない煙に巻かれながらも、苦痛の表情は見られなかった。

これは、いったいなぜだろう。美しい顔であった。
人間の愛を表現する顔であったのか。

だれかがいった。

「花があったらなあ――」

あたりは、はるか彼方まで、焼け野原が続いていた。

私たちは、数え十九才の学徒兵であった。

写真版 東京大空襲の記録
写真版 東京大空襲の記録(新潮文庫)

 

●1年前の今日:被爆ピアノ

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Comments 2

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さくらみるく  

いちばん大切なことは、言葉にならない。
言葉にしてはいけないのかもしれません。

大切なことを、言葉にならないことを
言葉で無くしてお伝えいただいた記事だと思います。

そして、本当のことは、そのようにしてしか伝えられないのかもしれません。

わたしもまた、これ以上何も書かずに帰ります。

ありがとうございました。

2010/08/08 (Sun) 18:45 | EDIT | REPLY |   
どくとる☆はにわ  
さくらみるく さん...

★毎度おかげさまです。

 ボクは2年前の「何としても語り継ぎたい!」という記事で
 http://haniwa.blog3.fc2.com/blog-entry-838.html

| 事実を伝えることの 本来の意図は、
| 「これからの自分たちは、いかに生きるべきか」
| それを意識しあうことにあるはずであって、
| そうならない方法での伝え方は
| そろそろ考え直してもイイように思う。

 と、書いているのですが、
 ショッキングな事実の表現方法の難しさに困惑しながらも
 触れずにいられない気持ちのままに
 記事にしてしまったというのが正直なところです。

 コトバ数が少ないのは、
 コトバに表し切れない重い事実であると共に、
 その事実から感じ伝えたいことを正確に伝えたいからであり、
 さらに、
 本当は、単に文章を書くのが苦手だからです(^^ゞ

 実際、ほとんどの記事が 短い文だし。。。

 では、お気楽に..(^^)/~~~

2010/08/11 (Wed) 23:11 | EDIT | REPLY |   

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